【全国医学部長病院長会議の要望書】

【全国医学部長病院長会議の要望書】
 新たな医学部の増設と急激な医学部定員増に対する慎重な対応を求める請願について
 全国国公私立の医学部・医科大学80大学は、「医師養成増への政策転換」を大英断であると真摯に受け止め、この3年間で1221名の医学部定員増に協力して参りました。定員増以前の医学部定員は1大学当たり平均95名であり、今般の1221名もの医学部定員増は12〜13大学の医学部を新設したこと同義です。従って、16%もの医学部・医科大学増を達成したことになります。
 私どもは、当面、経済協力開発機構(OECD)平均(300人/10万)に医師数を目指す政策に大いに賛同します。定員増に関してもマニフェストに明記されている「十分な財政的支援」のもと、今後とも定員増に協力してゆく所存です。
 しかし、一方では、新たな医学部の新設と急激な医学部定員増は、以下に述べる理由から「医療崩壊」をかえって増悪し、国民福祉の後退をもたらす可能性がある事を強く危惧致します。この点、慎重な対応を切にお願い申し上げる次第です。
1.医学部新設の地域医療への影響
 医学教育の質を担保し一つの医学部を運営するのに必要な臨床教員(臨床医)数は、既存の1大学当たり647.5人です(基礎医学・付属施設他除く2007年データ、全国医学部長病院長会議医学教育委員会調査)。厚生労働省三師調査(平成20年12月31日現在)では大学病院を除く病院勤務医は全国で10万人当たり95.8人です。従って、人口100万人規模の都道府県の病院勤務医はその10倍にあたる960名程度です。一つの医学部を新設することは100万人規模の都道府県の勤務医を3分の2以上現場から連れ去る事になり、都道府県一県の地域医療を崩壊させることになります。
2.急激な定員増により危惧される地域医療への影響
 マニフェストには医師養成の「質の拡充」が挙げられております。国民が求める良質な医師の養成には、医師養成増に応じた教員の確保が必須です。臨床系教員の候補となる者は、現時点においては地域医療の中核として働いている30〜40才代の病院勤務医以外にはおりません。教員確保のため地域病院のこれらの有能な医師を医療の現場から教員として招くことは、地域病院の医師不足を加速し、むしろ医療崩壊をさらに悪化させることになる事が危惧されます。
3.医師数増加の現状 
 現時点でも、毎年約4400人ずつ医師は増加しています(年10万人あたり3.5人の増)。医師養成数を1.5倍とすると、入学後学生が卒業する年のわずか6年後にはマニフェストの目標値である経済協力開発機構(OECD)平均の10万人当たり300名に到達します。また、その後、約10年を待たずに世界一の10万人当たり400名に達し、その後も急激に増え続ける事になります。
現時点でも、毎年約4400人ずつ医師は増加しています(年10万人あたり3.5人の増)。医師養成数を1.5倍とすると、入学後学生が卒業する年のわずか6年後にはマニフェストの目標値である経済協力開発機構(OECD)平均の10万人当たり300名に到達します。また、その後、約10年を待たずに世界一の10万人当たり400名に達し、その後も急激に増え続ける事になります。
4.医科大学
 必ずしも米国にならう必要はありませんが、現在の米国医師養成大学は130校です。これを日本の人口当たりに換算すれば49校であり、80校の医師養成大学を擁する日本で、多大なる経済的また人的負担をかけて医師養成大学を新たに増設する意味はありません。むしろ、既存の医学部を活用し、ハード、ソフト、スタッフ面の拡充強化で対処する方が、社会的影響も少なく、財政的にも有利です
5.マニフェスト通り医師を目標数に到達させた後の医師養成
 マニフェストの目標の医師増を達成した後は、医師の安定供給を目指す必要があります。現在、毎年医籍から抜けてゆく医師数は約3500名です。従って、目標とする医師数の増員を達成した後は、一校当たり約50名弱の定員で充足する事になります。設備投資に多大な資金を投入し、教育者を雇用した後の定員削減は容易ではありません。
 この時期、新たに医学部を増設することは、歯学部、薬学部、法科大学院の先例で経験したように、「百害あって一利なし。」であり、後世に大きな禍根と、負債を残すことになります。この意味でも新たな医学部の設置については慎重な対応を切にお願い申し上げる次第です。