「高点数」による個別指導に合理性なし - 京都府医師会副会長・安達秀樹氏に聞く

「高点数」による個別指導に合理性なし - 京都府医師会副会長・安達秀樹氏に聞く◆Vol.1
京都では実施せず、ピアレビューへの信頼が背景に
2010年8月25日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)
 厚生労働省が指導・監査の充実強化の方針を打ち出す動きがある一方(『指導・監査、「業務内容把握が不十分」と問題視』『「保険医療指導監査部門の充実強化」を提案したわけ』を参照)、集団的個別指導、個別指導に対しては、制度やその運用の仕方をめぐって、医療現場には従来から問題視する声が根強い(『集団的個別指導、平均点数・対象時期「提示なし」多数』を参照)。
 保険診療に関する指導は、行政の役割だが、その実施に当たっては都道府県医師会も関与している。では各医師会は指導をどう捉えているのか。
 京都府医師会副会長で、中医協の委員を務める安達秀樹氏に、京都府での現状や問題点、改善の方向性をお聞きした(2010年8月13日にインタビュー。計3回の連載)。


医療機関の専門性により、必然的に高点数になるケースはある。高点数という理由だけで、指導の対象にするのはナンセンス」と問題視する安達秀樹氏。
 ――京都府では、どのような形で集団的個別指導、個別指導を実施されているのでしょうか。

 集団的個別指導については、レセプト点数の上位8%の医療機関に対して実施しています。府医師会も参加して説明するほか、指導用のパンフレットも従来は府医師会が作成したものを使っています。

 ただ京都府では、「高点数」が続いたという理由だけで、個別指導を行うことはしていません。2008年10月に、社会保険事務所から地方厚生局に移管された際、「高点数」の医療機関への指導を実施したいという申し出はありましたが、府医師会との話し合いの中で、やらないことになっています。同じ近畿でも、大阪も「高点数」だけでは個別指導は実施していませんが、やっている県もある。都道府県によって差があるのでしょう。

 もちろん、従来通りの個別指導、つまり通報があった医療機関などへの個別指導は実施していますが、これについても本当に問題がありそうかどうか、通報の内容を確認した上で行っています。

 ――なぜ京都府では「高点数」の医療機関への個別指導を実施していないのでしょうか。

 医師会のピアレビューに対する、社会保険事務所の信頼が厚かったからだと思います。私も個別指導に何回も立ち会った経験がありますが、指導を受けている先生としばしば、「先生、それはおかしいでしょう」「その検査のやり方は、学会基準で通るのか」などと、大激論になる。社会保険事務所の指導医療官が、「指導を担当しているのは私ですから、こちらを向いてください」というほどです。

 府医師会がピアレビュー的な意識を持っていて、普段から実践し、実際の個別指導の場でもそうした対応をする。府医師会としては、どんな場合でも、「会員を守る」とは考えてはいません。残念ながら、どんな職業集団でも、「まともでない人」がいるのは事実です。それはピアレビューで対応しなければならない。「立会人よりも、指導医療官の方がやさしい」と言われた時代もありましたから。

 ――医師会側の立会人は各分野の専門家なのでしょうか。

 府医師会の常勤役員が行くので、そうとも限りません。ただ、非常に専門的な内容になる場合には、各専門医会の人に立ち会ってもらうこともあります。

 一方で、指導内容に問題があれば、指導医療官に対しても徹底的に指摘する。指導医療官の中には非常に権力意識が強い方がいて、医師を追い込んだり、人格を否定したりするケースもあると聞きます。他の県では、過去に指導を苦に自殺された医師もいます。

 ただ、社会保険事務所の時代から、指導医療官を探すのには非常に苦労されている。府医師会もよく相談を受けました。現役の医師は臨床に携わっており、指導医療官の給与は安く、なり手を探すのは容易ではありません。また、指導医療官には専門性が求められます。専門外の分野であれば、個別指導の前に専門家に、せめて「この検査は、どのような時に必要か」などと聞いておくべきでしょう。そこに医師会の組織を使ってくださいということです。

 ――現在、厚生労働省は、個別指導を全国標準化しようとしています(『指導・監査、「業務内容把握が不十分」と問題視』を参照)。

 確かに個別指導の時間を統一するなどの動きがあります。今の政府内、特に行政刷新会議のメンバー辺りからは、「指導・監査、レセプト査定をしっかりやれば、もっと医療費が削減できるのでは」という議論も聞かれます。こうした議論に、地方厚生局が対応するようになっている。先ほども言いましたが、京都でも、「高点数」による個別指導をやりたいと言ってくるようになりました。

 ――では、「高点数」が続いたことを理由に個別指導を行うことに、合理性はあるとお考えですか。

 合理性は全くない。その医療機関の専門性により、必然的に高点数になるケースはあるわけで、高点数という理由だけで、ピックアップするのは全くナンセンスだと思いますね。療養担当規則などに照らして言えば、高点数か否かにかかわらず、「ルール違反」は残念ながらあるわけで、それを対象にするのが本来の指導。今のやり方では、「高点数だから、必要なものもやってはいけない」と、指導を受ける医療機関の方は受け取ってしまう。これが萎縮診療。それは我々の受け取りようであって、医師会のスタンスとしては萎縮する必要はない、というべきです。

 ただ、m3.comの今回の調査(『集団的個別指導、平均点数・対象時期「提示なし」多数』などを参照)を見ると、「検査などを実施したが、(高点数になることを懸念して)算定しなくなる項目が出てきた」というコメントがありましたが、これは“ダンピング”に相当するので、健康保険法違反に当たります。実施したことは、きちんと請求することが必要です。